act.13

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 ニキビ顔の店員は「やった!」と奇声を上げ、店長に何か言われる前にさっさと荷物を纏め、「今度埋め合わせはするから」と言ってスタンドを出て行った。青年は、そんな先輩の姿を目で追いながら、呑気な笑顔を浮かべている。  一方、ガソリンスタンドの店長は、深い溜息をついた。 「辻村、お前なぁ。清水に対して甘いんだよ。そりゃ、お前がいてくれりゃ、女性客の入りも格段にいいし、対応もいいから、うちの評判も上がるけどさ。ちょっとお前、働き過ぎだよ。疲れないか、そんなんで」  辻村と呼ばれた青年は、肩を少し竦めると、しゃがんでバケツの中の雑巾をゴシゴシと擦り併せた。  店長は、側の自動販売機でホットの缶コーヒーをふたつ買うと、1個を辻村に向かって放った。辻村は器用にそれをキャッチする。 「すみません、いただきます」  辻村は側のペーパータオルを取って手を拭うと、キャップを脱いで腰のポケットに差した。  少し離れたカウンターの裏からでも、青年の美しい横顔が窺える。  髪は男らしく短く刈り込んであったが、それを差し引いても、青年の顔はこんな小さなガソリンスタンドには不似合いなほど美しかった。  店長の岩倉は、こんな青年が、陽もとっぷりと暮れようとした自分の店にいること自体が不思議でならなかった。 「── お前、毎日そんな遅くまで働いて、彼女怒らないか? 昼間は映像の専門学校に行ってるんだろ? 彼女と会ってる暇がないじゃないか」     
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