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「── いい女という訳ではないですけど・・・。俺にとって掛け替えのない人です。本当に死ぬほど好きだけど、俺が側にいたらあいつが苦しむだけだから、俺は一緒にいられない。だから敢えて捜さないことにしたんです。それがあいつのためなんだと思って・・・」
伏し目がちにそう言う辻村の言葉を聞いて、ふいに岩倉は自分のことが恥ずかしくなった。興味本位に訊くことではなかったような気がしたのだ。
「── 何だか、悪かったな。辛い恋をしてるのに、何だか俺・・・」
恐縮している店長の姿を見て、辻村はまたあの清々しい笑みを浮かべた。
「やめてくださいよ、店長。店長らしくない。別に俺、後ろ向きの人生送ってる訳じゃありませんから。── あ、いらっしゃいませ!!」
新たに入ってくるエンジ色のボルボを見つけ、辻村は外に飛び出して行った。
「いらっしゃいませ!」
尋が頭を下げると、ボルボの窓がスーと下がった。
「ハイオク満たんにしてちょうだい」
濃い色のサングラスをした女性が、歯切れのいい声でそう言った。
「ありがとうございます。ハイオク満たん入ります!」
尋はそう叫んできれいに手入れさせた車の給油口を開くと、給油機のパネルにハイオク満たんをセットしてフロントの窓を拭きにかかった。
「灰皿、ゴミはよろしいですか?」
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