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イヤミったらしく顔を歪め、キンキンした嫌な声で言う海。その顔つきに尋は顔を歪めながらも、こいつもなかなかうまいことを言うなと内心感心した。
『息の仕方も忘れる』・・・か。
尋がその言葉を反すうしたその途端。
ずぼ。
突然、尋の目の前から海の姿が消えた。
もうもうと立つ砂埃の中、尋が驚いて辺りを見回すと、尋の足下に砂だらけの海の頭と両腕が砂から突き出ていた。
「おい、何だ。どうしたんだよ」
尋が動揺を隠せずに上擦った声で訊くと、砂にまみれて真っ白な顔をした海が、尋を見上げボソリと答える。
「先月掘った穴にはまった」
その海の台詞にキョトンとする尋。その尋を気まずい顔つきで見つめる海。
「なに、あんた。落とし穴にはまったの?」
尋の素朴な問いに、声もなくただ頷く海。
「しかも、それ、自分で掘った穴?」
またまた声もなくただ頷く海。その瞳は僅かながら潤んでいるようにも見える。
その羞恥に赤く染まる海の顔つきを見て突然、霧が晴れるように事を理解した尋が、声を上げて大笑いし始めた。
「あんた、つくづくバカにできてるな!」
尋は、よじれそうな腹を抱えながら、笑いに笑う。
海は真っ赤に赤面させた顔も俯き加減に、ぼそぼそと悪態をついている。
「うるせぇ。人の失敗笑うやつにろくな人間いやしないぞ」
やや涙声なのが情けない。
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