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act.01
|プロローグ|
あんたは、人を殺したことがある?
方法はなんだっていい。命ばかりか、その存在や人生の記憶そのものを完全に破壊しきったことは?
── 俺は、ある。
そこにあった真実は何であれ、俺は人を殺した。それも、この世でたったひとりの親友を。
拭い切れない罪、逃れられない後悔を抱いて。
何も感じず、何も思わず。そうして心を殺さなければ、生きて行けず。
そうだ。この世に神様なんていない。
<神様の住む国>
鏡の中の男は、今日もまた責めるような目つきで彼を見つめ返している。
お世辞抜きで不気味なほど美しく端正な顔が、いつものごとく責めなじる。「まだ生きてやがるのか、この人殺し」と。
瞼がひくひくと引きつり始めると、“発作”はすぐ側まで迫っている証拠だ。
一見てんかんの発作と酷似しているが、これはあくまで彼がメンタル的な問題を抱えているせいだ。だが、それに気づいてくれる人間は、彼の身の回りには一人としていない。
獣のような唸り声と共に湿気で曇った鏡を叩き割ろうとした時、浴室のドアがノックされた。
「尋くん? 尋くん! 大丈夫?!」
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