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act.03
久しぶりの大学。朝の日差しが差し込む大講義室は、学生の他愛のないおしゃべりで溢れ返っている。
尋はいつも、教室に入る時は、後ろの出入口から入ることにしていた。こうすると目立たずに席につくことができる。それでも、一部の学生には気づかれるから、遠慮のない熱っぽい視線を身体中に浴びることになるが、それでも大講義室の中の全員から好奇の視線を浴びるよりはいくらかはましだった。
尋は滅多に大学に来ないから、今や天然記念物のような扱いを受けていた。
尋の知らないところで撮られた写真が、アイドルの生写真のようにして校内や校外で取引されていることは、尋も気づいている。
── これじゃ、おちおちトイレにも行けやしない。
尋の存在は大学でもどこか浮いていて、尋はいつも、まるで借り物のような時間を過ごしているような気がしてならなかった。
講義室に歴史学の老教授が入ってきた。と、同時に尋の右隣に滑り込むようにして遅れてきた学生が座ってくる。
尋は、別に気にもとめなかったが、顔の前で組んだ腕の下から見覚えのあるサングラスが差し込まれて、反射的に右隣の学生に目を向けた。
ギョッとする。
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