雪に鳴くなら

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雪に鳴くなら

未明からちらつき始めていた雪が、1センチ程の積雪をもたらした。 雪に慣れてない私は、ひーひー言いながら通学路の坂道を慎重に歩かなきゃならなかった。 いつものローファーではなく、ちゃんとスニーカーを履いてきた。にもかかわらず、油断するとズルッといってしまいそうだ。 学校近くの川辺に野鳥が飛来するというので、それを撮影して広報誌に載せようという運びになり、我々広報委員は取材に来ていた。 それも登校する生徒もまばらな、こんな朝早くからだ。 広報委員長の先輩はそれを取り仕切るリーダーで、私はカメラ係だった。 「……ホントに野鳥なんて現れるんですか?こんな雪の中」 カメラを構えて、私は先輩に振り返って訝しげに尋ねる。 目線頭一つ上の先輩は、紺のマフラーをして白い息を吐き、朝露みたいなさわやかな笑顔を浮かべている。 「それは野鳥に聞いてみないとわからないな」 「はぁ」 なんだか、のらりくらりといった口振りだ。 「まぁ自然生物は雪が降ってるからって引きこもることはないと思うけどね。それに、雪景色と小鳥ちゃんって絵になると思わないか?きっとベストショットが約束されるよ」 「……はぁ」 なんだか芸術家気取りなこと言っちゃってる。しかも小鳥ちゃんとか、言い回しがキザだ。 こう見えてリーダーシップを発揮するし後輩からも慕われてるしで、先輩ってちょっと不思議な人だ。 「……なんかプレッシャーだなぁ、上手く撮れるかなぁ。てか先輩の方がカメラ上手そうなのに」 「いや、君が撮った方がいい。むしろ君に撮ってもらいたいんだ。君のカメラの腕は、先生方からも一目置かれてるからね」 「……ホントですかぁ?」 「ホントだよ。僕も君のカメラの腕は買ってるんだ」 うまく言いくるめられてるような気もする。 広報委員になるまでカメラ未経験だったし、カメラの腕に関しては自覚がない。 確かに広報誌には私の写真がよく採用されて、それが誇らしくはあるんだけど。
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