雪に鳴くなら

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「……なかなか来ませんねぇ。移動してみますか?」 「そうだな……。あ、手を貸そうか?」 「えっ、──……」 唐突に差し伸べられた、先輩の手。 思わず、カーッと体が熱くなった。こんなに寒いのに。 「手……って……」 このまま手を取ったら、それはつまり手を繋ぐってことで──。 「だって転んだりしたら嫌でしょ?坂の下までコロコローって転がっちゃいそうだし」 「こっ……転がったりなんかしませんよ!」 ムキになって思わず叫んだ。 しかも最近太ったこと気にしてるのに……!なんて知ったこっちゃないだろうけど。 「大体コロコローってなんなんですか、人を雪玉みたいに──」 「──! シッ!」 なおも食い下がろうとするも、突然先輩が人差し指を唇の前に当てて耳を澄ますような素振りを見せるので、あわてて口をつぐむ。 ──その時だった。 チッ……チチチチッ…… 鳥のさえずりだ。 「……あ」 見ると、川辺の流木にとまる一羽の鳥。 はっと息を飲んだ。 ──雪景色と小鳥ちゃんって絵になると思わないか?── 先輩の声が頭をよぎり、本能的にその瞬間を切り取りたい衝動が加速する。 ──僕も君のカメラの腕は買ってるんだ── 私は唇を引き結び、すぐさまファインダーを覗いた。 さあ、撮れ、私。 約束されたベストショットを収めるために。
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