絶望の国の夢

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絶望の国の夢

男はひどく疲れていた。とにかく、睡眠が足りなかった。朝7時に自宅を出て深夜0時に帰宅。この生活では5時間の睡眠をとるのが精一杯だ。 目覚まし時計に叩き起こされ、のろのろと布団から這い出す。疲れがたまった体は鉛のように重い。ほんの少し気が緩んだだけで、たちまち意識を失いそうになる。なんとか身支度を整えて職場に向かい、上司に怒鳴られながら深夜まで残業。まるで奴隷のような毎日だった。 男は平凡な人生を送ってきた。中流家庭に生まれ、裕福ではないが貧しくもない少年時代を過ごした。両親と妹の4人家族。ごく普通に勉強し、ごく普通に受験をして、ごく普通の大学に進んだ。 卒業後も普通に就職して、サラリーマンとなった。一昔前であれば普通に結婚し、普通に子供を育て、普通に老後を迎えたに違いない。 しかし、この国の状況は大きく変化した。政治の無策によって経済全体が失速を続ける中、男が勤務する会社も徐々に業績が悪化していった。 そして5年前、ついにリストラされた。別室に呼び出された男は「あなたはもう不要なのだ」と一方的に解雇通知を受け、サインするよう求められた。嫌も応もなかった。     
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