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「そんなバカな。55年だ。55年も眠り続けたというのか?」
「この機械の中に入られていたのは4時間程度でしょうか。まさに『邯鄲の枕』でございますな」
「……」
「“庶民”の生活は、いかがでございましたか?」
「最悪だ。あれが……あれですら、中流の生活だというのか?」
「はい。我が国は病んでおります。経済、そして政治の荒廃によって庶民が“普通”に生きることすら難しい状況になってしまいました」
「そうか。そうだったな。その苦境を体験するために、私自身が選んだことだった」
「ようやく思い出されたようですね、閣下」
「ああ。嫌な夢だったが、むしろ、あれこそが現実なのかもしれない」
男は思い出した。自分が何者であるかを。そして、ここがどこであるかを。
「さて、そろそろ参りましょう。まもなく第1回の閣議が始まります」
「そうしよう。我が国の問題を身をもって知ったのだ。政治家たるもの、後世に笑われぬ、よい時代にしていかなければな」
赤い絨毯の上に立ち、男はゆっくりと歩き始めた。
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