彼と俺との適切な距離

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***  湊さんのマンションにたどり着くほんの少し前、運悪く雨が降ってきた。  急だった。傘なんて気の利いた物は俺も湊さんも持ってない。しかも結構な土砂降りで、玄関の内側に揃って入った俺達は悲惨な有り様になっていた。 「ひどい目に遭った」 「ですね……」 「ちょっと待ってろタオル持ってくる。あとついでに給湯つけてくる。シャワー使え」 「へ?」  明るい廊下をすたすたと歩いていく湊さん。玄関に取り残された俺は一人呆然。  タオルは分かる。シャワーは分からない。なんだシャワーって。シャワーって何。  おそらく変な顔になりながら上がるに上がれず突っ立っていると、すぐにタオルを持って戻ってきた湊さんが俺の頭にそれを被せた。咄嗟に腕を上げようとして、その腕はやや強めに引っ張られている。  急かされるまま靴を脱いだはいいが綺麗な床を汚しそうで怖い。ところが俺の心配をよそに家の主は平然と。俺の濡れた髪はこの人の手によってポンポンと丁寧に拭かれていく。追いつけない状況の中で鞄を持ったまま停止していた。 「あの……」 「うちに連れてきたせいで風邪でも引かれたら困る」  硬直する俺から湊さんは鞄を取り上げた。玄関の棚の上に置かれたそれ。  湊さんの左手はまだ、タオルを隔てて俺の頭の上にある。その手が止まると今度はパチリと目が合った。 「…………」 「冷えただろ」 「……いえ。大丈夫、です」
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