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「……あれですか。テリトリー意識強め?」
「さあな」
「詮索されるのが嫌とか?」
「それはある」
ありそう。俺も今まで根掘り葉掘り質問攻めにしなくて良かった。
しかしそこまで思い、ふと気づく。彼女でさえ部屋に上げたくないのであるなら俺は。湊さんにとってこの現状は好ましいものではないような。
「あの……俺が上がっちゃったのは大丈夫、なんですか?」
「当然だ。来ねえかと誘ったのは俺だぞ」
「でも彼女は嫌なんですよね?」
「ああ。お前なら構わない」
彼女は嫌。俺は構わない。なんだそれ。
「……友達はよく来るんですか?」
「いいや。全く」
これも違った。
彼女は家に上げたくない。友達だって呼ぶことはない。ならば俺という存在の意義は。
困惑しつつ湊さんを見ると、涼しげな顔でこの人は言った。
「自宅に誰かを招きたいと思ったのは初めてだ。お前じゃなかったら誘ってない」
はっきりとそこまで聞かされ、数秒間は反応に困る。五秒くらい後になって一度まばたき。それからようやく口を開いた。
「……そっか」
「ああ」
「なんか……どうも」
「こちらこそ」
嬉しいだとかどうだとか言っていられる場合ではなくなった。友達ってこんな感じだったっけ。こういうのとは違った気がする。心臓付近のザワザワが酷い。
味の分からなくなったチョコレートを一つ噛み砕き、同じく味の良く分からない缶ビールを一口飲んだ。その様子を隣のこの人がじっと見てくる。元々眼差しの強い人ではあるが、今夜は一層、色が濃い。
「ついでに泊まってくか?」
「……えっ?」
「服もまだ乾かねえ。どうせ明日は休みだろ」
「あ……」
俺の勤め先は公休が土日だ。湊さんの所もそれは同じらしい。
その事はお互い知っているが、お泊まりまでは想定外。
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