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「それでさぁ、他の男と喋らないでーとか携帯見せろーとか、私のこと散々束縛しまくってた癖に、自分は最近まで二股かけてたんだよあの男!しかも元カノと。」
「まぁっ……最低ですね、その人。」
「絶対許さない、別れるから!って、その日のうちに、あの人の家に置いてたものとか全部引き上げて、私は清算したつもりだったんだけど。」
「だけど?」
「彼が、どうしても一度だけ話をさせて欲しいって、しつこくてさ。それで今日、このビルの最上階のレストランで待ち合わせしてたの。奢るって言うから、仕方なく。」
話しながら、私はもう一度携帯を見る。
相変わらず圏外表示の画面に、彼から来た最後のラインが残っている。
「でも、いくら待っても、肝心の本人が来なくてね?そしたら、急な仕事が入っちゃって何時になるか分からない~って連絡がきて。頭に来たからもう帰ろうとして、そしたらここに閉じ込められちゃった、ってわけ。」
「それは、災難でしたね。」
彼女は心底気の毒そうに眉を下げ、強気な話し方とは釣り合わず込み上げていた私の涙を、そっと指で拭ってくれた。
華奢な手足、美しい造作、丁寧な言葉遣い。
「君に足りないもの」と彼がよく言い並べたものを、目の前の彼女は全て持っている。
つい、見とれてしまう。
「……私の彼も、」
「…えっ?」
彼女は静かに語り出した。
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