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チーンと小気味良い音と共にエレベーターは一階で止まり、ドアが外から開けられて、「もう大丈夫ですよ」とオレンジのつなぎを着た人達に抱えられ、私は外へ運び出された。
ビルの外は夕暮れで、沢山の通行人がいつもと変わらない様子で歩いている。
日常の風景に、ぼんやりとしていた意識がようやく戻ってきて、私は辺りを見回した。
一緒に居た彼女は何処に行ったのだろう。
何かあって、先に病院に搬送されたのだろうか。
なおもきょろきょろと辺りを窺っていると、何処からか私の名前を呼ぶ声がした。
人混みの向こうで、あの人が手を振っているのが見える。
今日のことを思い出し、私は一瞬迷ったが、彼のすまなさそうな顔に結局、手を振り返す。
溜め息をひとつつき、自分の中ではそれでチャラにして、彼の元へ駆け寄ろうとした。
その時、ごうっと風が吹き抜けた。
目の前の彼が、笑顔のまま、轟音と風と共に横に吹っ飛んでいった。
その彼と目を合わせていた私の視界も、つられて左から右へスライドする。
瞬きの後、そこには、隣のビルに衝突して黒煙をあげるトラックが映る。
一拍置いて、同様に惨状を目の当たりにした人々の悲鳴が辺りを包んだ。
皆がパニックになり逃げ惑う中、私は動けずにその場で立ち尽くしていた。
私の目の前を物凄い速さで通り過ぎていったトラックの、普通なら速すぎて見えるはずのないその運転席に、彼女が座っているのが見えた。
ふわふわと透き通った体をした彼女は、その時私の方を見て、確かにこう言っていた。
「まずは一人目。」
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