雪と桜

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カシャ、カシャ、カシャ…… A「私の上半身が、桜から生えているのがそんなに珍しい?」 B「下半身が桜の幹って、凄い()だね」 A「撮影の邪魔しないで」 B「君って、春になったらどうなるの?」 A「散って消えるわよ」 B「君が撮った写真は?」 A「誰かが持っていてくれたらうれしい。たとえばあなたとか」 B「残念だけど、僕も春が来れば溶けて消える」 A「私、雪の精と話したの初めてよ」 B「僕も、桜の精と話したのは初めてだよ」 A「お互い、生まれたのも生きているのも、今年限りだけどね。来年の私たちは、違う私たちだから」 B「あのね……そこの村、最後の村人が、昨日亡くなったよ。君にカメラをくれた人じゃないの?」 A「そう。じゃあ、私の頼まれごとは、もう意味がないのね。ここから見える村の姿を残してくれって言われていたのだけど」 B「誰かが見るかもしれないよ。何年か後に」 A「あなたも私もいなくなった後に?」 B「村が村ではなくなった後に」 A「あの村人は、私に、コートとマフラーをくれたのよ。寒いだろうって。ここから動けない私が、遠くまでよく見えるようにって、眼鏡もくれたの」 B「君、まるで、人間みたいに見えるよ」 A「どれも、私にはなくたっていいものなのに。でも、私、約束を守らなきゃ。写真を撮らないと」 カシャ、カシャ、カシャ…… B「君。言いにくいんだけど、そのカメラは、人間が街に持っていかないと、写真には」 A「分かってる。あの村人も、私も、分かってるの」 B「……そうか」 A「分かってるのよ」 カシャ、カシャ、カシャ…… カシャ、カシャ、カシャ……
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