後編

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「私は実は子供が欲しくありません。自分の遺伝子を受け継いだ子供なんて生まれてもうれしくないし、逆にその子供に迷惑かけてしまうのではないかと思うので。だから、私と結婚しても子供はあきらめてください。でも、できれば、私は大鷹さんと結婚したいと思っています。もし、大鷹さんが良ければの話ですが。」  話していて、私はなんてわがままな女なのだろうかと思ったが、これは私の理想なので譲れない部分である。私は両親に孫の顔を見せなくて親不孝者だとは思わない。そもそも、私には妹がいるので、私ではなくても、妹が結婚して子供を産むことで、この問題は解決する。  大鷹さんは黙って私の話を聞いている。それをいいことに私は畳みかけるように最後まで自分の主張を言わせてもらうことにする。 「そもそも、私は子供が欲しくない以前に結婚もしないつもりでした。最近、両親が結婚しろとうるさく迫ってくるので、仕方なくこうして結婚相談所に通っていたわけです。最終的に結婚したという事実があればいいと思っています。それで両親は納得します。」 「じゃあ、もし僕が結婚してもいいと言ったら、どうするつもりなのですか。」  ここで初めて大鷹さんが口を開いた。答えはとうに決まっている。 「ただ婚姻届けにサインしてくれればいいだけです。それで終わりです。結婚式も必要ないし、新婚旅行もなくて結構です。私に気を使う必要もありません。その後一年ほど私と一緒に暮らしてくれれば終わりです。」 「終わりというのは不吉ですが、一応倉敷さんの話を最後まで聞きましょう。」  最後まで私の話を聞いてくれるということか。まったく、私にはもったいないほどいい男性である。  どうせ、このまま私の話を最後まで聞けば、いかに寛容な大鷹さんでも私との結婚をあきらめるだろう。私は大鷹さんと結婚することはないだろう。そう思うと、なんだか胸の奥が苦しくなった。嫌な予感がして、その思いの正体にふたをすることにした。
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