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浴衣がほしいと妹はねだり、そんな着らんやんねと母はつれない。
巻き込まれたくない私は、無口な父に話しかけるか自分の部屋まで逃げるか迷っていた。まだ花火が家族のためのイベントだった高校時代、あれは最初の夏休みだった。
できたら一人で自分の部屋から、小さくてもいいからゆっくり観たい。でもみんなで観なきゃいけないんだろうなと思っていた、あれは私一人の思い込みか、それとも田舎特有の「ウチ」の形だろうか。
大学生になり、せっかく長くなった夏休みは、とうとう私の最大の敵にまで成長してしまった。
サークルの合宿、きもだめし、親睦会、お付き合い前の「とりあえず花火」。
そういうものって、したくない人にさせるものじゃないと私は思うのだけど、大学生にとって、それらはもはや義務なのだと彼らは言う。
「だって大学生だよ?」
「うん」
「夏休みだよ?」
「うん」
「もったいなくない?」
「うん、はい、じゃあくるっと回って」
友人の着つけをしてやりながら鏡越しに見る自分が、妹の帯を結ぶ母と重なってぞっとする。それなら喋るのを止めないこの子は、結局私の浴衣で我慢して「お姉ちゃんと二人で着たかったのに」とふくれた妹か。
花火とクリスマス、イコール家族、せいぜい友だち。
この図式が通用しないことに慄いたのは、つい三日前のことだ。都会人は中学生になればそんなの卒業して、イコールの後をコイビトに書き換えてる。だから、花火なんかに誘われた日には告白されたも同然というのが彼らの言い分で、なんてホラーだと私は思った。
世間知らずの箱入り娘と笑われたって腹も立たない。何気なく「そういえば誘われたんだけど」って言わなきゃ、私は今頃恋愛の一部にされていたのだ。あのこは誰が好き、そのこはこっち。くるくる回転する矢印に突然指されてみんながこっちを向くあの瞬間が、嫌いだ。
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