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「ごめんねー。ありがとう! 私着つけとかできないし、どうしようかと思ってたんだー」
可愛く笑う友人を見送って、私は深くため息を吐く。ネットで一夜漬けの文庫結び、彼氏未満さんの前でほどけなきゃいいけど。
冷房の効いた室内でアイスクリームをすくう。いつも以上にざわめく駅前通りが不思議だ。眠たい。でも我慢する。また私の部屋に戻ってきて洋服に着替える友人のために、横にはならず目をつむる。
まったく、こんな日々のどこが休息だ。これならいっそ帰省すればよかった。
ああでもあっちでもみんなで花火、でもとりあえず花火よりは、ううんでも……。
心は夜空にぶら下がって、ゆらゆらふらふら、自分のものなのにここにない。
あっちこっちで青白く光る、よかったら花火見に行きませんか? ときどき顔文字。
いいヒトそうじゃん、と友人が言う。
「とりあえず一回行ってみれば?」
私はふるえる。絶対いやだ。
「何で? この人が嫌いなわけじゃないんでしょ?」
うん。
「じゃあ何で?」
嫌いではない。こわいけど。
カーテンの向こうで雷が鳴ってる。
ばりばりばりっ、窓がふるえる大音量。
寄りかかってた私は慌てて避難の準備をはじめる。
リュックサック、の横の妹も着た浴衣の皺。紺色にピンクの蝶。昨夜の練習の後、ここに放りっぱなしだった。忘れていた。でもとりあえず今はそのまま。
持っていくべきものは懐中電灯、保険証、通帳、現金、それから、それから……。
テレビをつける。
気象情報は流れてない。
でも相変わらず外はうるさい。雷も、人も。
どんっ、どんっ。
一際近くてうるさくて「あっ」カーテンを開ける。
残念、見逃した。
次の花火を待ちながら、私は座りなおして溶けたアイスを食べはじめた。
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