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握っていたはずだった主導権が、鉄平の小さな呟きで強引に奪われてしまう現状は、俺としては正直おもしろくない。だけどこうしてるのが、居心地の良さを一番感じられる。
きっとそれは俺だけじゃなく、鉄平も同じ気持ちでいると思う。だってふたりそろって、好きという想いでつながっているのだから。
「白鷺課長、自分なりに仕事を早く終わらせますので、ご褒美をいただけませんか?」
扉の前でおねだりした、俺の脇を通り過ぎながら、ドアノブに触れている手に、鉄平の手が重ねられた。さりげない接触の中で、鉄平のてのひらの感触を忘れないように、肌が感じようとして熱を追いかける。
「今のがご褒美だ」
「えっ?」
「冗談だよ。ご褒美は、坊ちゃん次第ということで」
俺に触れた手を見せつけるように、ひらひらと振りながら自分のデスクに戻る上司を、複雑な心境で眺めた。
自分が次期社長の座についても、鉄平にうまいこと言いくるめられて、頭が上がらない気が激しくする。それでも――。
「頑張りますよ、白鷺課長のために」
両想いを持続させる努力を心の中で誓いながら、部署の扉を閉めたのだった。
おしまい
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