なおしたいコト

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 モデルから芸能界に入り、お偉いさんと枕営業を重ねて、うまいこと仕事を獲得しつつ、幼なじみのリコちゃんを手に入れようとした。ひとえに、自分の片想いを成就させるために――。  だけど彼女には彼氏がいた。ふたりを別れさせる作戦を実行するために、俺は彼氏を誘惑した。  途中までは、思惑通りだった。ただひとつだけ計算外だったのは、彼氏が俺を好きになってしまったこと。そのせいで、すべての歯車が狂いはじめ、結果的に俺は痛い目を見た。  自分がやらかした事件と一緒に、ゲイだということが世間にバレた。必然的に、芸能界を引退しなきゃいけないレベルにまで、追い込まれてしまった。  リコちゃんも手に入らない上に、世間から注がれる冷たい視線に耐えられなくなり、もう駄目だと思ったそのとき――俺を支えるように、傍に付きっきりでいてくれたリコちゃんの元彼、克巳さんが心を込めて告げたんだ。 『……それでも君は君だから。今は傷ついてボロボロだろうけど、君ならきっと、立ち直ることができるって信じている。稜の笑顔を、一番間近で見たいと思っているんだ。俺に向かって笑ってくれるだろ?』 「今の俺は空っぽだけど、立ち上がることができるかな?」 『じゃあお腹いっぱいになるまで、俺の愛情で満たしてあげるよ。君にとってのメリットは、何もないかもしれないけどね』  そう言って、優しく抱きしめてくれたあの日。俺はこの人のために、何としてでも立ち上がろうって決心した。まずは克巳さんを笑顔にするために、一から芸能活動をはじめた。  仕事に携わったスタッフや共演者たちは、最初のうちは俺に冷たかった。  引退寸前まで追い込まれたのに、それでも再起を図る憐れなヤツという目で見られていた。  だけどそれにめげず、真摯に仕事に取り組む俺の姿勢に、少しずつだったけど、周囲の態度が変わっていった。  それと同時に、ゲイである自分や同じ人たちが住みやすい世の中になるには、どうしたらいいだろうかという考えが芽生えはじめた。  芸能界の仕事をバラエティから、ニュース関連に関わるものへとシフトチェンジして、今の情勢を探った。  そこから導き出されたものは、法を変えないとLGBTである自分たちが生きにくいことが分かった。だから俺は、芸能界から政界へ殴り込みをかけるべく、長かった髪を切って選挙戦に出馬したんだ。
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