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ぽつ、ぽつりと、いつからか降り始めた雨は、次第に強くなっていく。
僕と田中で、動けない渡辺を担いで、近くの屋根付きのバス停まで運ぶ。
なにかがおかしい。うまく言葉にすることができないけど、変なことが、立て続けに起こっている。いや、わざわざ言葉で説明しようとしなくてもいいことに、困らされている。
雨は強さを増し続け豪雨となった。バケツをひっくり返したような水圧が、トタンの屋根に打ち付ける。
「おまえら、普通じゃないよ」
「…どうして自分が普通だなんて言いきれるんだい?」
僕のつぶやきに、田中が急に険相な面で迫る。
「普通の人なら、いきなり物理法則が変わってしまうかもしれないなんて思わないし、歩き方を忘れるなんてこともないじゃないか」
「確かに。俺も普通じゃないと思ってる。だが、ありえないことではないんだ。実際こうして自分の身に起こっている。」
渡辺も身を乗り出す。
「田中の言う通りだよ。じゃあ、佐藤。お前はどうしてそんな平気にふるまっていられるんだ?俺の身に起こりうるということは、誰の身に起こっても不思議なことじゃない。」
「どういうことだよ」
渡辺は、ひとつ息を整えた。
「お前のその普通ってのは、何が担保しているんだ?教えてくれよ!!」
雨はトタンを破り、刹那、僕たちを飲み込んだ。巨大な滝の中に放り込まれたかのよう。天地の界面が崩れ、あいまいになっていく。
雨の中にいるのに、宙に浮いているようだった。
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