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「なんで、志望大変えたの?」
「そりゃ国立の方が夢に近づけるし、」
あと、と言い淀んだ後、「やっぱ教えない」と意地悪く口角を上げる。
「ずるい! 教えてくれるんじゃないの?」
「何でも、とは言ってない……」
でも、どうしても知りたい。全部知りたかった。
だから大神が凄く困った顔をしてたけど、引くことができなくて、
「えぇー! じゃあ、大神の願い事も教えてよ。私も恥を忍んで白状したんだし」
「えー、それは……ちょっと」
「ひどっ、 私にだけ言わせといて……」
いつの間にかムキになっている自分がいた。
なんでだろう。なんなんだろう。
全部知って、私はどうしたいのかな。
「あーもー! 分かったよ! じゃあさ……最後にもうひとつだけ教えてよ」
「えー! また質問?」
「俺はいっぱい教えたよ?」
「もぅ、仕方ないなぁ……」
すると大神は、ムスッと膨れた私の頬を、なぜか人差し指でつんと押した。
「えっ……」
「ねぇ君嶋、」
そして見上げた先に揺れていた、呑み込まれそうなほど真剣な瞳に、はたと気付いた。
───思い出した。
幼い頃に聞いたグリム童話。
そこにはいつだって、なんでも一口でパクリと丸呑みにしてしまう奴がいたんだ。
急に現れて、突然優しく喋りだして、あっという間に平和な日常をひっくり返す奴がいたんだ。
私はずっと忘れていた。
ひっくり返すのは私だと勘違いしていた。
無防備だった心は、頭の良い「オオカミ」に、あっという間にひっくり返されちゃうんだった───
「どうすれば俺のこと好きになるのか教えてよ」
FIN
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