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時折ちらちらと視界に入る赤色。
鬱陶しいと言うか、気になると言うか。
視線の行き場に困った私は、結局いつもの様に結衣の横顔を見た。
うどんを啜っている。麺が畝りながら口に吸い込まれる。なんだか掃除機みたいだ。
「なに? ガン見されると食べ辛いんだけど」
結衣が迷惑そうに眉を寄せる。
「ん? 気にしないで。 掃除機みたいだなって思っただけ」
結衣の手が伸びた途端、私の頬が摘み上げられる。
「いだ──っ!!」
「あんたね、冗談はこの大福みたいな頬だけにしなよ!」
言いながら手を離し、結衣はまたうどん啜りに専念する。喋り足りない私は、玉子サンドを頬張りながら結衣の脇腹をつつく。唯一の弱点なのだ。
「ねーねー」
「ちょっ! うどんが! 鼻から出るからやめてよっ!」
「鼻からうどん! インスタ映えだ!」
スマホをかざして待ち構える。
画面越しの結衣がこちらを向き、大きなため息を吐き出した。
「あのさ、そんなに見たくないなら席移ればいいじゃん……」
結衣の視線の先に、そいつはまだいた。
人目を惹く赤色の髪に、耳にはイヤフォン。視線はいつも窓の外。
自分の世界オンリーで生きてます。って撒き散らしている彼を、みんなは親しみを込めてこう呼んでいた。
「オオカミくん」
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