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私は、彼がそんなことを聞くとは思わなかったので、その言葉を理解するまで呆然と彼を見るしかなかった。
(えーと、どういうことなの?)
つまり彼は、私の知っている九十九刹那ではあるが、記憶喪失となっているのか、
それとも彼は九十九刹那によく似た別人なのか…。
私は、彼を知るにはどうしたらよいか考え、
「何にも覚えてない?」
と、私は九十九くんだと思われる彼に問いかけた。
自分のこと、どこからきたのか、なぜ倒れていたのか、そして、私のことを。
「すみません。何も覚えていないです。ただ、あなたの名前、移川翠月という名前はどこか聞いたことがあるような気がします」
と、彼は言った。
私の名前を聞いたことがあるという事は、やはり彼は九十九刹那なのだろうか。
しかしどう見ても彼の顔、彼の声、全てが九十九くんのままなのだ。
私自身、九十九くんを見間違えるはずはないと思う。
私ははっと何かを思い出し、押し入れの中を漁る。
彼のことを確かめる物がその中にあるはずなのだ。
「あ、あった」
私は押し入れの中から1冊の本を取り出した。私が取り出したその本は、沢山の九十九くんとの思い出が詰まった卒業アルバムである。
アルバムは貰ってから今に至るまで、1度もも開いてなかったため、少し埃がをぶっていた。私はその本の埃をはらい、
「これを見て少し思い出せればいいけど…」
と、九十九くんに手渡した。
九十九くんは何のためらいもなくそのアルバムに手をかけ、1ページ1ページをゆっくりとめくる。
ページをめくる音が私の部屋を響かせる。
私は声をかけることなくページをめくる九十九くんを見ていた。
そう─。あの頃のように…
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