「彼」という存在

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また、あの頃のようにアルバムを優しく閉じる彼が今、目の前に居る。 アルバムを彼が読み終わった事を私は確かめ、 「な、何か思い出した?」 と、九十九くんの様子を伺う。九十九くんは、こちらをゆっくりと見て、 「すみません。今の僕には何も思い出せません。」 と、頭を下げた。私は頭を下げた九十九くんに驚き、慌てて 「き、気にしないでっ、まだ思い出せるチャンスはあるはずだから、これから徐々に思い出してこ?」 だから頭を上げて?と伝わるように彼に言った。 そしたら九十九くんは、 「ふふっ、」 と何故か笑ったのだ。 私は何が何だか分からず、首をかしげて彼を見る。 すると九十九くんはまた笑いながら 「面白い人」 と、言ったのだ。 その顔を、その言葉を聞いたとき、私は思い出した。 あの時も私は慌てていたのだ。 見惚れていたことを隠すために。 それを見た彼は、満面の笑みを浮かべ 、同じように 「面白い人」 と言ったのだった。 そう、この瞬間、私は、九十九刹那に恋をしたのだ。 そして大学生となった今でも私は彼が好きで、大好きで、 その笑顔をいつまでも見ていたいと、 いつまでも彼と一緒にいたいと、 そう思ってしまったのだ。
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