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そう ─、僕は「僕」を知らない。
覚えていない、というのが正しいのだろうか。
窓の方から小さくエンジンの音が聞こえてきた。
それが、バイクの音であるということは知っている。
しかし、「僕」の事はまるで分からない。
「何にも覚えてない?」
バイクの音が過ぎ去った後、彼女がそう言った。
彼女はそれから色んな質問をしてきた。
まず、僕のこと。
これは僕自身、まるで分からない。
だが、彼女は僕を九十九刹那だといった。
言われてみればそうなのかもしれないが、違う気もする。
次にどこからきたのか、なぜ倒れていたのか。
これも思い出せない。気がつけば彼女の部屋にいたのだ。しかし、彼女の部屋の香りはどこか懐かしく感じるのだ。
やはり僕は彼女のいう九十九刹那なのだろうか。
最後には、彼女のことを聞かれた。
移川翠月 ─。その名前を聞いたとき、どこか違和感を感じたのだ。
それが何なのかは分からない。彼女のことなど覚えていない。しかし、その名前は何故か聞き覚えてのある気がした。
僕が少しの間黙っていたせいか、彼女が不安げな表情を浮かべながら、僕を見ていた。僕は、自分の中で今覚えていることを整理しながら、
「すみません。何も覚えていないです。ただ、あなたの名前、移川翠月という名前はどこか聞いたことがあるような気がします」
と、彼女に言った。
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