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「な、何か思い出した?」
と、彼女のほうから声がした。
どうやら僕は、いつの間にか読み終えてしまったらしい。
気づいたら読んでいた本を閉じていた。
僕は正直にこの記憶について話すべきか迷ってしまった。
僕に関する記憶は一切思い出せない。しかし、彼女に関する記憶ならある。
これを話せば僕は「九十九刹那」である可能性は大きい。
しかし、今の僕には僕が「彼」だとは到底思えないのだ。
だから、
「すみません。今の僕には何も思い出せません。」
と、頭を下げた。彼女の記憶を話さないように。
僕は何故か胸に痛みを感じた。
初めて感じる痛みだった。
僕は、その痛みに耐えるようにずっと頭を下げていたら
「き、気にしないでっ、まだ思い出せるチャンスはあるはずだから、これから徐々に思い出してこ?」
だから頭を上げて?と彼女が言った。
僕は頭を上げ、彼女を見る。
彼女は慌てながら身振り手振りでこちらに話しかけていた。
その姿はまるで、さっき見た幼い彼女のようだった。
今も昔も変わらない。
僕はその姿を見て、
「ふふっ」
と笑ってしまった。
彼女は何も変わらない。あの時のまま。
記憶の中の彼女が今、目の前にいる。
それだけで僕は ─。
「面白い人」
僕は何故かとても安心した。
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