23人が本棚に入れています
本棚に追加
数年後…そして。
俺は高校卒業後、家を出た。お前まで出て行かなくてもいいんだ、と言われていたがいつまでもいる気はなかったし、“兄弟”として思い出のたくさん詰まったこの家にいるのも嫌だった。
兄は数年前に家をでて帰ってくるのは正月の三が日のみだった。両親共もっと帰って来いと言っていたらしいが、バイトが忙しいやら何かと文句をつけて帰ってこようとはしなかった。
ある時、街中で兄を見かけた。声をかけようかどうしようか迷ったが、隣に頭二つ分小さな女がいることに気付く。
――なんだ女いんのかよ。
とチクリと胸が痛んだ。あの時、あの走り去った背中が今も焼き付いている。もしかして兄は俺のこと気になってたんじゃないかって思ったりもした。じゃないとあの場面をみて逃げ出したり、ましてあの出来事以降、上辺だけの兄弟を演じるはずもなかった。
――クソッ
行き場のない怒りが宙を舞う。あの場面を見られなければ今普通の兄弟のように過ごせていたのだろうか。むしゃくしゃしたまま雑踏を歩き、前から来た数人の連中に構わず突っ込む。
「痛ってーな!」
最初のコメントを投稿しよう!