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最初は“無理ー”と思っていたが、1年もすれば慣れるものは慣れるらしい。
胸には“雅”と一文字が光る。
「すみませ~ん、ミヤビくんお願いしま~す」
甘ったるい香水のニオイやフルーツの甘酸っぱい匂いやらが鼻腔いっぱいに広がる。
テーブルの上には高級シャンパンが何本も空けられていた。
「はーい、雅くんも飲んでぇー」
酒が強いとは言え、この日は流石の俺でもきつかった。
――雅也、大丈夫か?
閉店後、介抱してくれたのはあの時俺を拾ってくれたオーナーだった。
――店で休んでいくか?
と遠くで聞こえる。それには首を横に振ると店を出て行ったらしい、らしいとは後で聞いた話だった。
足が宙に浮いているかのようにふわふわする。俺は家を出てから一度だけ行ったことのあるアパートを目指していた。今思えばこの時この行動をしていなかったら今の俺たちはなかったのかも知れない。
酔った足取りでたどり着いたそこはボロボロのアパートで玄関チャイムなんか画期的なものはない。
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