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俺は転がったままになっていたボールを拾うと彼に近寄り声を掛ける。
「ねぇ、今僕の事呼んでくれたの?」
彼にボールを手渡しながら話しかける。
「うん、おみちゃ、遊ぼ!」
満面の笑みで返され、釣られてこちらも笑顔になった。“おにいちゃん”と言いにくいため“おみちゃ”になったのかと思ったが、どうやら弘臣の“おみ”が彼にはお気に入りだったようで、それからしばらく“お兄ちゃん”と呼べるようになるまで“おみちゃ”が当たり前となった。
それからは二人でいることが極自然となり、どこへ行くのにも二人必ず手を繋いで行くようになった。
近所の人たちも俺たちが二人でいると必ず声をかけてくれていたと思う。
しかし、あの可愛かった弟も時間が経てばどんどん成長していく。彼が小学校低学年の頃までは手を繋いで仲良く登校していたが、ある時を境にそれがなくなった。
『もう今日から…お兄ちゃんと登校するの止める』
そう宣言された時はこの世の終わりかと言うくらいに酷く悲しかった。これが俗に言う父親が娘を嫁に出したくないという心境なのかと子供ながらに思っていたのは、当時やっていたテレビドラマが関係しているのかも知れない。
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