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真也は、私のそんな問いかけにもニッと笑うと、突然青空に向かって大声で叫んだ。
「うおおおおおおおおおーーーー!」
反射する他の山もなく、その声は雲ひとつない青空に吸い込まれていく。
「な、なに……?」
「いや、気合い入れ? 美結もやってみたら? 緊張、ほぐれるよ?」
「……遠慮しときます」
一体、何の気合い?
それに、私たちはお互いに緊張し合うような関係じゃないでしょ。
「相変わらず美結はノリ悪いなぁ」
真也はヘラヘラと笑ったけれど、その表情は一瞬にして少し強ばったものへと変わる。
何だかそれが、怖かった。
やめて。何も言わないで。
私たちが過ごしてきた日常が、変わってしまうのが嫌だった。
「今日は、話があってここに来たんだ」
「山のてっぺんでしないといけないような話?」
話をそらそうとした、というより、これは単純な疑問。
話なら学校でも、その行き帰りの道でも、どこでだってできるだろうに。
私は、その話を聞くために日曜の朝から山登りをさせられたというのか。
「うーん、これはただの思い出作り?」
「何それ」
「普通にどっか行くよりインパクトに残るだろ?」
何だそれは。
確かに今日のこの苦しみながら登った山のことは、一生忘れないような気はするけれど。
真也らしいというか何と言うか……。
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