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軽くノックをして扉を開けると、既に顔見知りになった学生たちが「久しぶりだね~」「元気?」などなど声をかけてくれる。
テキトーに返事をして永瀬の姿を探すが、見当たらない。
留守か…とガッカリする。
学生の1人が「永瀬先生なら今図書館に行ってるよ」と教えてくれた。
待ってればそのうち帰ってくると思うけど、と言われたが、会えないとなると会いたいという衝動が更に沸き上がってきて、小走りで図書館に向かう。
勢い余って本の山に突っ込みそうになる寸前で、なんとか回避する。
「相変わらず危ないな、アンタ」
そう言ったら、本の山の向こうから、ひょいと顔が覗いた。
「昂平君」
満開の笑顔だ。
あんなに見たかった永瀬の顔だが、見たとたんになんとなく恥ずかしくなり、昂平は本の山に視線を移す。
「これ研究室に持っていけばいいわけ?」
本を半分取り上げると、永瀬は更に嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
相変わらず誰も手伝ってくれないんだよねー、とぼやき、でも、とまた微笑む。
「昂平君が手伝ってくれるなら、誰もいなくてよかった」
「つか、いっぺんに運ぼうとしないで半分ずつ運べよな…また眼鏡壊すだろ」
その眼鏡壊したら今度は選んでやんねぇからな。
昂平がそう言うと、永瀬はうーん、と首を傾げた。
「確かに、この眼鏡が壊れるのは嫌だなぁ」
昂平君が僕に似合うって言ってくれた大事な眼鏡だもんね。
ふんわり笑う永瀬の顔に、すれ違う学生たちがチラチラと視線を送ってくる。
年が明けて、髪を切った永瀬は、まるで急に現れた美人な転校生のような扱いで、学生たちの間では瞬く間に有名人になっていた。
全然別の学部の昂平の友人たちでさえ、噂を聞いて永瀬を見に行ったりしていたらしい。
永瀬の研究室の学生たちは、そういうことにあんまり興味がないのか、永瀬に対する態度に全く変化はなかったけれども。
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