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年が明けて早々に、昂平は帰省から寮に戻ることにした。
塾講師のアルバイトは、冬期講習の間は休みを貰っていたので、そんなに早く戻る必要はなかったのだが。
年越しの夜を一緒に過ごし、元旦の昼過ぎにはフィールドワーク先の京都に戻って行った永瀬が、3日には大学に戻ってると思うよ?と言っていたので、彼もそれに合わせて帰寮することにしたのだ。
それに。
彼にはもうひとつ、差し迫ってやらなければいけないことがあった。
アパート探しである。
今、昂平は大学の寮に住んでいるが、基本的に、寮は一年生が優先され、大半の上級生は二年に進級する際に退寮を余儀なくされるのだ。
年が明ければ、寮を追い出される新二年生たちが、一斉に住まい探しを始めることになる。
ちょうど、卒業する予定の先輩方がアパートに解約の申し出をする時期でもあるからだ。
少し出遅れると、今度は新しく入ってくる新入生たちの、寮なんて古臭いところに住みたくないという金銭的に余裕のある層も、少しでも条件のいいアパートに住もうと参戦してくるから大変だ。
引越にはお金がかかるし、できれば彼も、安くて優良な物件を早めに押さえたい。
そんなことをつらつら考えていると、柔らかい声に名前を呼ばれた。
「昂平君」
ハンドキャリーを引きながら改札を抜けた永瀬が、嬉しそうに昂平に手を振っている。
あのボサボサ頭がトレードマークだった永瀬とは、本当に別人である。
普段あまり混雑することのないこのローカルの駅も、三が日ということもあって今日はそれなりに人が多いが、すれ違う人が皆はっと振り返って見るほどの美貌を惜しげもなく振り撒いて、彼は昂平のところへ歩み寄ってきた。
「ごめんね、待たせちゃったかな?荷物が多くて、移動に手間取っちゃって」
おっとりとした口調や、へらっと笑うその笑顔は全然変わっていないけれど。
「そっち持つから貸して」
昂平が手を出すと、永瀬は素直に手持ちの荷物のほうを渡してきた。
「昂平君は荷物少ないね」
「実家だから、そんなに荷物必要ないし」
必要以上に素っ気なくなってしまうのは、照れからだ。
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