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年越しの夜、割と穴場の人が少なめの神社で除夜の鐘を聞きながら、永瀬は昂平に何度か軽いキスをした。
優しく、そっと。
初詣を終えた後も、日の出を待っているときも、周りの人の目を盗んでは、何度も何度も。
昂平はその度にむず痒い気持ちになりつつ、抵抗もせずその行為を受け入れた。
永瀬の触れるだけのキスは、彼の温かい体温が伝わって心地よかったし、それ以上は求めてこないことに安心もできたから。
年越しというイベントで、何か気持ちが盛り上がっていたせいもあるかもしれない。
だけど、今こうして面と向かうと、そのキスをどうしても思い出して、非常に照れ臭い。
永瀬は、そんな昂平の心情に気づいているのかいないのか、冬休み前と全く変わらない態度だ。
駅前のパーキングに止めてあった永瀬の車に荷物を積んで、二人は彼のマンションに向かった。
「晩御飯何が食べたい?って聞きたいけど、今日までは休みのところが多いかなぁ?」
ファミレスとかでもいい?
運転しながら、永瀬がそう尋ねてくる。
永瀬のマンションは自炊とは程遠い環境だ。
作り付けのキッチンは、おそらく入居してから一度も使われたことがなさそうだし、調理道具も材料もない。このご時世で電子レンジすら置いてないのはどういうことだ?と思いたくなるわけで。
ちなみに、何故帰寮するはずの昂平が永瀬のマンションに一緒に帰ることになっているのかと言うと、寮のシャワーが壊れたからである。
年末年始も寮に残っていた友人に、正月の挨拶がてら「明日戻る」とLINEしたら「戻ってくるな、今、寮お湯出ねぇぞ」と返事が返ってきた。
正月で業者も休みらしく、しばらく直らないらしい。
その話を「帰る日が同じなら、時間合わせられたら寮まで車で送るよ?」と言ってくれた永瀬に何気なく言ったところ、あっさり「それなら、直るまで僕のマンションに泊まる?」と言われ、深く考えずにその申し出に乗っかった昂平だったが。
助手席の昂平は、運転する永瀬をチラリと盗み見る。
永瀬は、昂平の気持ちを待ってくれる、と言ってくれた。
たぶん、無理矢理どうこうなることはないと思う。
でも。
あの狭いベッドに二人で寝る。
前回泊まったときは、永瀬の身体の反応まで知ることになったのを、どうして自分は忘れていたのか。
結構我慢している、とも言っていたのに、こんなに簡単に彼の親切に甘えていいのだろうか。
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