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マンションに程近いファミレスで早めの夕食を取り、夜食用にコンビニでおやつを買い込んでから、永瀬のマンションに到着した。
昂平にとってはまだ3回目の永瀬の家だが、既に馴染みがあるような気がするのは何故だろう。
「しばらく留守にしてたから、埃っぽいかも…ごめんね」
狭くて汚いのはもう知ってるだろうけど。
永瀬はのんびりそう言いながら、部屋の鍵を開ける。
彼の態度は本当にいつもフラットで穏やかで優しい。
だからつい、昂平も、このひとが自分についてどう思っているのかを忘れてしまいがちだ。
自分はこのひとを好きだ、と自覚したのは数日前で、正直まだ肉体関係…とかそんなことまで考えられない。
兄に対して抱いていた激しい劣情とは違い、ただ頭を撫でられる、抱きしめられる、そんなことで身体全体がほんわかと温かく心地よくなって、これまで感じたことのないような充足感を得られる。
ただ側にいて、他愛のない会話をして、そのひとから滲み出る癒しのオーラみたいなものに包まれているだけで十分なのだ。
まるで、恋に恋しているだけの夢見がちな少女のようだが。
それでも、いつのまにか、永瀬の姿に兄を重ねるのではなく、兄の姿に永瀬を重ねていたのだから、兄への想いはもう吹っ切れて、このひとに恋していることは間違いない。
「あー、やっぱりなんか埃くさいなぁ…」
相変わらず山積みの本に部屋のそこここを占拠されている部屋に、永瀬は残念そうに言う。
「昂平君、荷物はテキトーにそのへんに置いていいから」
「ありがと」
ございますをつけるべきか?
そう思いつつ、もう今更だ、と語尾は濁した。
まだ、このひとに対して、敬語を使うべきなのかすら迷っている状態だ。
まあ、なんだかんだと悩みつつも、結局タメ語でずっときているのだが。
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