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眠りに落ちてしまった昂平にそっと布団をかけて、永瀬はそろそろとそのひとの髪に触れた。
いわゆる恋愛対象として好きになって貰うのは無理だと思っていた。
でも、身近にいるいい人、友達とかそういうレベルでいいから側にいたいと、それだけで十分だから、と。
彼が笑えば自分も嬉しくなって、彼が悲しい顔をすると自分もせつない。
彼が傷つけられそうになったときは、いまだかつて感じたことのない怒りを覚えて制御するのが大変だった。
これは間違いなく恋なのだ、と嫌でも自覚した。
例え、赦されざる想いを抱く相手の身代わりでもいいから、とまで思って、相当重症なのだと気づく。
「ん……」
髪を撫でられたのが心地よかったのか、昂平が永瀬の手に頭をぐいっと押し付けてきた。
もっと撫でて、と言わんばかりに。
だから、可愛いひとなのは、もう十分わかっているから。
本当に、あんまり煽らないで欲しい。
そんなに多くは望んでいない。
彼が、自分を必要としてくれている。
自分に仄かでも好意を持ってくれている。
それだけで舞い上がるほど嬉しい。
煩わしいほどに寄せられる欲望から少しでも自分を守るために伸ばした髪を、ばっさり切ってもいいと思えるほどに。
だけど、あまりに可愛いから、それ以上望みそうになって困る。
髪から手を離すと、その感触を探すようにモゾモゾと動く昂平の額に、そっと永瀬は唇を押し当てた。
永瀬の匂いと体温が伝わって満足したのか、しばらくそのままでいたらすーすーと寝息をたて始めたので、彼はなんとかその場を離れる。
研究の続きにはすぐには戻れそうになかった。
シャワーを浴びて、身体の衝動をおさめてこよう。
永瀬は髪が短くなって軽くなった頭を振って、浴室に向かった。
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