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まだ紹介できてない三年が一人裏庭で写真を撮っているはずだから様子を見て来てくれ、と部長に言われた俺は、言われた通り行った裏庭で、地面に横たわっているその姿にギョッとした。
カメラを構えていたからこの人が『先輩』なんだ……と恐る恐る近づいた。制服の紺色のスカートから、つるりとした膝小僧がむき出しになっていた。
何度声をかけても反応がないので、仕方なくカメラのレンズを構えるその正面に身を乗り出す。ファインダーの中に見知らぬ男子生徒が現れて驚いたのか、ようやく先輩がカメラを下ろして俺を見た。驚いた顔がそうするまで俺の存在に全然気づいていなかったことを物語っていた。
まじかよ、結構な大声で呼んでたのに。
呆れ返った俺を見て、先輩が言った。
「ねえ、君。桜はなんで散るのかな」
それが『先輩』が俺にかけた初めての言葉だった。
先輩は少し変わってた。
何しろ先輩はカメラをのぞき始めると周りが見えなくなる。猫を撮ろうと追い回しているうちに木に登って降りられなくなった先輩を、駆けつけた俺がハシゴに登って助けたこともある。
いつも先輩が見つめているのは、四角く切り取られたカメラの中から見える世界。
いつだろう、その世界の中に、先輩の視界の中に俺のことを入れて欲しいと強く願うようになったのは。
「水平線を見つけたいんだ」
というから、電車に乗って海へ二人で行った時は
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