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(これってもしかして、デートかも)
と、ときめいたりしたが、結局ギラつく太陽の下二時間もただ立ちすくんで、カメラを構える先輩を横から見ていただけだった。
カメラを持つと、そこから見える世界に没頭してしまう先輩は本当に危なっかしくて、でも愛おしくて仕方なかったんだ。
文化祭が終わり、三年が引退してからは先輩とは会っていない。
俺の中でくすぶっている気持ちは置き去りのまま数ヶ月たってしまった。
「先輩……」
つぶやくと同時に俺は教室を飛び出し、廊下を走った。途中、誰かに声をかけられたような気もしたが、立ち止まるなんてできない。
雪の中を校舎裏のこんな場所にくるやつなんていないはずだ。俺の願望が見せた幻かもしれない。でも、靴跡が俺の行く方向に続いていた。動悸が早くなってくる。それは走ったせいばかりじゃなくて。
キュムと、と俺の足元の雪が鳴き声をあげた。
白い息を吐いて立ち止まった俺の二メートル先。紺色のコートを着た後ろ姿は俺より十五センチ低い。
「……ぱい。先輩」
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