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「私の構築したセキュリティを破ったハッカーが一体どんな人なのか、どうしても会いたかったの! まさか同じ高校生だったなんて思わなかった」
そう言いながら少女はこちらへ向かおうとして、そして、足元にあった何かの家電の破片につまづいた。
「痛っ!」
反射的にリュウトは少女の元へ駆け寄った。ひどく凹凸の多い道を歩きながら、少女の言葉を脳内で反芻した。確かに先週、拾ったばかりの端末でハッキングをし、取得した電子マネーを使って動画や音楽を落とした。
リュウトの目の前で、少女は自力で立ち上がった。元気よくスカートの裾を払っている。その裾は所々破れていて、膝やすねにも細かい傷がついていた。リュウトの元にたどり着くまでに、この廃棄場で作ったものだろう。
「私、横峯由佳。あなたは?」
リュウトより頭一つ分ほど背の低い少女が、こちらを見上げている。まつげの長さに目がいった。くるんとカールを描くその先をじっと見つめながら、リュウトは沈黙した。
「名前、教えてよ! 大丈夫、通報したりなんかしないから。むしろ、スカウトしたいぐらいだよ。昨日からみんな隕石のニュースに夢中で、私がこんなすごいハッカーがいるって騒いでも全然話聞いてくれないの。もう、信じらんない!」
ぐい、と、もう一歩、由佳はリュウトの元へ歩み寄ろうとした。そこで、また、鉄骨の破片のようなものを踏み、バランスを崩して、リュウトの方へよろめいた。
「きゃあっ!」
「――!」
反射的に、リュウトは由佳を受け止めた。手のひらに、上質なセーラー服の生地と、その布ごしの、少女の柔らかな肘の感触が重なった。ふわりと、廃棄場には似つかわしくない匂いが漂ってきた。それが鼻腔を刺激した瞬間、脳で何かを考えるより先に、リュウトは由佳を突き飛ばした。
「えっ!?」
驚いて叫ぶ由佳が視界の端に映る。どうなったかを確認しないで、リュウトは背を向けて走り出した。
それが、由佳との出会いだった。
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