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 そのとき、ピピピ、と、男の言葉を遮るように、端末が発信音を出した。緊急ニュースが入った合図だ。リュウトはテーブルの上に携帯端末を置いた。 『地球に近づいている隕石に関する情報です。NASAの定例会見では、軌道は現在のところ予測から外れておらず、地球への衝突は免れないとしています』  ニュースキャスターが淡々と読み上げる言葉は、もう何度も聞いて飽きたものだ。 「隕石さまさまだよなあ」  男が笑いをこらえるように、言った。  リュウトは顔を上げる。  初めて、男の顔をじっと見た。高級そうなスーツを着て、髪を切りそろえ髭もそられている。だが、明らかに、周囲で気まずそうにこちらをちらちらと見ている、他の客とは、異質だった。例えば、汚染された大気と激しい紫外線のせいで荒れた肌。栄養が行き渡らないところを何度も噛みしめたせいで、醜いかさぶたができている唇。  恐らくは、自分もそうなのだろう、と、リュウトは思った。 「あれが地球に向かってきてくれなきゃ、俺ら一生、くそったれな「下」の世界で、泥水すすって這いずり回って、ぼろくずみたいな人生終えるだけだったんだぜ。それがある日、「搭乗員」に選ばれて、一発逆転の大チャンス!」 「選ばれたわけじゃないんで」 「ん?」  リュウトは視線を皿に落とした。食べ方のわからない「上」の世界の食事が、段々と冷めかけている。 「あれは、国民番号を政府がランダムに抽出しただけでしょう。誰かが俺たちを「選んだ」わけじゃない」 「やーだなー、そんな揚げ足取っちゃう?」 「俺は、誰にも選ばれてなんかいないんで」  リュウトは目を閉じる。  誰にも選ばれてなんかいない。そう、由佳にも。  だから、裏切って、手を離した。
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