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 オーダーしてから五分と経たずに、料理は運ばれてきた。真っ白なテーブルクロスに、傷も汚れも一つもない陶器の皿。その上に美術作品のように盛りつけられた肉料理からは、食欲をそそる香りが立った。優雅に給仕をすると、ウェイターのアンドロイドは静かに立ち去っていった。  リュウトは黙って、目の前に出されたものを見つめる。遠い昔、動画で見たことのある、「高級なディナー」のイメージそのものだった。ステーキ肉は、リュウトの慣れ親しんだ安物の人工肉ではないのがわかる。名前の知らない料理を乗せた皿の両側には、フォークとナイフが整頓されておいてあった。これを使って食べるのだろうが、どう使えばいいのかわからない。  リュウトは一度顔を上げ、あたりを見回した。「高級なディナー」を求めて入ったレストランは、極めて静かだ。テーブルとテーブルは一定の広い距離を置いて並べれられ、そこに着いているスーツやドレスを着た大人の男女は小さな声で会話をしているので、リュウトの耳には言葉らしい言葉は聞こえない。  突然、静かな店内に大声が響いた。 「なあ、あんた!」  驚きでリュウトは肩を震わせた。男の声はリュウトのすぐそばから聞こえた。 「あんただよ、あんた!」  いつの間にかリュウトの目の前に、ワイングラスを片手にスーツを着崩した、二十歳ほどの男が立っていた。頬がわずかに赤らみ、足下がふらついている。  リョウトと目の合った男は、にぃと笑うと、顔を近づけ耳元で囁いた。 「あんた、「下」の人間だろ」 「――!」  息を飲んだ。それと同時に、男からの酒気を帯びた呼気が鼻から肺へ入り込む。 「やーっぱな。俺と同じ臭い、感じたもんな。ウケる。あれだろ? これを機に今までできなかった、「上」の人らみたいな生活、体験しちまおうって、とりあえず高級レストラン初体験してみちゃいました! みたいな」 「……一緒にしないでもらえますか」 「なーんでよ、一緒でしょ、一緒。で、今、フォークとナイフの使い方わかんなくて困ってたしょ、ウケる。ワカるぅ~、わかるよ。そんなもんさ、てきとうにナイフで肉、ぶっさして、すすんなよ。マナーとか知らねぇって。こっちは金払ってんだから、誰も文句なんか言わねえよ」
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