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「ううん、何かわかる気がするよ」
「本当?」
「僕だって、いつも見てる神谷の顔を写真に撮っていたところだからさ」
「なるほどね」と神谷は口元に手を当てて上品に笑った。「私、何の変哲もない街の風景ってすごく好き。一期一会っていうか、この機会を逃したら、何だか二度と同じ風景が見れないような儚い気持ちがして。撮った写真をずうっと眺めているんだけど、ちょっと不思議で、悲しい気持ちにもなるんだ」
「それに今日は雪が降っているから、何だか切ない気持ちになるのかもね」
「私はその切なさが好きなのよ」
「僕も好きだよ」
「わかってくれる?」
「もちろん。っていうか、手袋もつけなくて寒くないの?」
「ボタンが押しにくくなっちゃうから、そこは我慢だね」
「これ、あげる」
僕はカバンの中からカイロを取り出し、激しく振って暖かくしてから神谷に渡した。神谷はそれを受け取り、にこりと微笑んだ。
「ありがとう」
僕は小さく息を吸い込んだ。冬の大気が口の中から喉の奥へと通り過ぎ、僕の胸の熱を少し冷ましてくれた。それから僕は傘をさして神谷の頭に雪が降らないようにして、思い切ってデートに誘ってみた。
「良かったら、近くのカフェでお茶でもしませんか?」
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