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フレームに写るもの
僕は傘を閉じて右の肘に掛け、両手の親指と人差し指でフレームを作り、そこに彼女の姿を写した。
すごく、絵になるなあ。
素直にそう思った。雪の花を咲かせた木のすぐ傍で、彼女は難しそうな顔をしてカメラを覗き込み、そこに何でもない街の風景を写していた。
「よう、神谷!」
ちょうど彼女がカメラから顔を離したところで声をかけた。きょとんと目を丸くした彼女の表情が白い花を咲かせた枝と一緒に写り、僕はもう一度感心した。
やっぱり、絵になるなあ。
「あら、田中くんじゃない」
「こんなところで何してんの?」
「見ればわかるでしょ。写真を撮ってるの。田中くんは?」
「見ればわかるだろ。写真を撮ってるんだよ」
言うと、神谷はくすくすと笑った。
「カメラなんて持ってないじゃない」
「目の前にあるだろ。僕の両手は、特別性のカメラなんだ」
「そうだったんだ。知らなかったわ」
「今まで隠していたんだけど、神谷には特別に教えてあげる」
「ふふ。嬉しい」
僕は両手のカメラを崩し、神谷のすぐ傍まで近寄った。
「何の写真を撮ってたんだ?」
「普通の街の風景よ。不思議でしょ? いつも見てる景色をわざわざ写真に撮るなんて」
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