悪夢の見た夢

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悪夢の見た夢

 随分前から、僕の夢にはある女性が棲み付いている。黒く、ゆったりとしたノースリーブのワンピース。足元は黒いハイヒール、手にはきめ細かい布地で作られた手袋。長く艶やかな髪と黒いヴェールで、目元を隠している。口元は薄っすらと紅を引いていて、何とも色っぽい。総じて、黒ずくめの貴婦人と言った風情だったが、彼女が只の人間ではないことは明らかだった――そもそも人間であるかどうか。  事の発端は大学の図書館で読んだ本だった。何故それが分かったのかと言うと、平凡・不変の日常の中、それだけが何とも奇妙な体験だったからだ。  我が大学の図書館は二つに分かれていて、第一図書館の奥に第二図書館と言う形に並列して存在する。より古い資料――書庫にもなく、貸出の難しいものが第二図書館には収められている。僕のような平学生には、これっぽっちも用のない場所だ。  それなのに何故足を運んだかと言うと、詰まるところ只の好奇心だった。     
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