悪夢の見た夢

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 第二図書館は薄暗く、湿っていた。渡り通路を歩いている段階から、少し身震いがした。空気が淀んでいると言えば良いのだろうか、宜しくない気配が何とはなしに察せられた。僕は常々臭いものには蓋をし、見たくないものには目を瞑り、危ないものには近付かないことを信条にしているのだが、しかしその日ばっかりは、その建物を覗いてみたいと言う気持ちが勝った。  やはり中はどんよりとしていた。数名の学生――と言うより、院生だろう――がロビーで本を読んだり、受付で手続きなどをしていた。紅いカーペットがどうにも頭をクラクラさせ、僕は前後不覚と言った感じに、建物の奥の方へ歩いて行った。  書架には古ぼけ、黄変した書物が沢山あった。微かに黴臭いその香りは、寧ろ好ましささえ覚えた。  ふと僕の眼を捉えたのは、黒い装丁の本だった。何やら理解の出来ない筆記体が、金箔によって表紙に刻まれている。中身が分かる訳でもないのに、取り敢えず開いて見てみると、全ての紙が真っ黒だった。まるでインクで塗り潰されたみたいに黒く、手触りからして何らかの皮を加工したものであることが分かった。  ふと指を見ると、紙の黒色が移っていた。そしてそれは――微かに蠢いていた。まるで生き物のように。すぐにハンカチで指を拭った。色は落ちたが、まだ指先に感触が残っていた。不快感はない。例えるならそれは闇の中、前後不覚の状態で手探りしている時の、暗黒の感触だった。  ――この本は、良くないものだ。     
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