涙、空高くに。

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わたしの好きな人には、もう会えないと思っていた。 二度と手の届かないところに行ってしまった彼を、追いかけることは許されない。 辛くたって、今を生きなければならない。 それなのに、どうしてわたしの目の前に姿を現すのだろう。 ……もしかしたら、神からのプレゼントなのかもしれない。 空を見上げ、天を仰いだ。 涙がこぼれないように。 ……もう、この世に彼はいない。 わかっていても、辛くて。 どうしても現実を受け入れられない。 「なんて顔してんだよ。」 それでも今こうして受け入れられたのは、 そうやってはにかむ半透明のキミが、わたしの前に浮いていたから。 「……っ、え!?」 「うるさ。お前、夜だぞ。声量考えろよ。」 「ちょ、ちょっと待ってよ!なんでいるの?」 久しぶりに目にした姿は、変わっていない。 ……当たり前だけれど。 「さあな。気づいたら戻ってきてた。やっぱここが落ち着くわ。」 「なにそれ?ちゃんと説明してよ!」 「俺もわかんねえんだっつーの。未練があったからじゃねえの?」 そんな、適当な……。 未練、って。あの何も考えてなさそうな、この人が……? 「……じゃあ、その未練を叶えたら成仏しちゃうの?」 「多分なー。でもまぁ、俺一生消えちまうわけじゃないし。」 「どういうこと……?成仏したらもう戻っては来れないんだよ?」 「うん、でもさ。お前の頭の中にいんだろ。」 彼の言いたいことがなんとなく分かった。 わたしの、頭の中に……ずっといる。 確かにそうだ、と思う。 「それでじゅうぶんだよ。あんま欲張るんじゃねえぞ。」 「え?」 「生きていられるだけで、幸せだと思え。辛くても、悲しくても、決して『死にたい』なんて思うな。」 この人の口から、そんな言葉が出てくるだなんて信じられない。 瞬きを繰り返すわたしに、ふっと微笑みかける彼。 「俺が、どれだけ生きたくても生きられなかった明日を必死で生きろ。それが、俺の最後の願いだ。」 さっきまであれほど堪えていた涙が、呆気なくこぼれ落ちる。 どんどん薄れていく彼の姿を、目に焼き付けておきたいのに。 視界がかすれて……よく見えないよ。
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