その目に映る世界

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その目に映る世界

「そこに立ってもらえますか? 写真、撮らせてください」  凛とした声が、依頼の形で要請してくる。それが自分に対してのものだとは思わなくて、辺りを見渡すことになってしまった。  昨晩、この地方には珍しくまとまった雪が降った。しかも、近場の公園の梅の盛りと重なったとかで、朝のニュースで雪化粧を纏った紅い梅が紹介された。それでたまには行ってみるか、と白い息を吐きつつ散歩に出てみれば、公園は同じことを考えたらしい人で込み合っていた。春の桜の頃ほどではないけど、いつもはもっと閑散としていた気がするのだけど。  話しかけてきた人も、きっと雪と梅を見に来たんだろう。大分気合が入ってるな、と思えるごついカメラを構えているから。デジカメでもスマホでもなくちゃんとしたカメラ。おじさんとかおじいさんが持ってたらそう驚かないけど、綺麗なお姉さん、って感じの人の手にあるのは意外かもしれない。 「えっと、自分ですか?」  写真が趣味なら、絶好のシャッターチャンスだろうな、っていうのは分かる。でも、梅と一緒に移すなら、被写体に相応しい存在はもっと他にあるはずだった。マフラーを翻して駆け回る子供とか、誰かが作った雪だるま、それにふんふんと鼻を近づける犬とか。何かのお稽古事でもあったのか、和服に毛皮の襟巻を纏ったおば様たちとか雅だし、黒いコートの学生さんなんか、雪に映えるんじゃないかと思うのに。なのに、自分なんかに声をかける必要はないだろう。  だから、半ばは違いますよね、の気持ちを込めてカメラのお姉さんに尋ねてみたのだけど――
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