その目に映る世界

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「そうですよ。そっちに、お願いします」  お姉さんは、何を当然のことを言わせるのか、という表情で大きく頷いた。それから、手袋もしてない白くて細い指が示したのは、まだ誰も雪を踏んでいない一角に、一本だけ佇む梅の木だった。もしかしたら雪に残る足跡も含めて写真にしたい、とか? それでもどうして自分に、って謎は解けないままだけど。  さくさく、きゅっきゅっ。雪をふむ音と感触を楽しみながら、梅の木の傍まで辿り着く。今まで誰も近づいていなかったのが不思議なくらい、この木も枝先を紅い花で染めている。花びらにうっすらと積もった雪、紅と白のコントラスト。雪の結晶に彩られた梅の花は凍ったようで静かな美しさを湛えている。カメラのお姉さんのお陰、になるのだろうか。柄にもなく、繊細な美に息を呑んでしまう。 「どんなポーズ――」  すれば良いですか、と聞こうとして、お姉さんを振り向いた瞬間。かしゃり、とシャッターを切る音がした。カメラのレンズ越しに、確かにお姉さんと目が合った、と思う。本当に、何が撮りたかったんだろう。どうして自分だったんだろう。お姉さんの澄んだ目には、世界がどんな風に映っているんだろう。それを知りたいと、心から思った。
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