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部屋は冷たい。
いつのまにか寝ていたらしい。足の間にうずめていた顔を上げ、ぼんやりと視線を彷徨わせる。ゆっくりと立ち上がり、少ししびれた下半身を引きずるように窓に歩み寄る。
窓外に視線を投じると、昼下がりの路地に雪がちりばめられていた。窓のサッシにかじかんだ指を掛け、するりと錠を開ける。緩慢な動きで窓を開け放ち、窓枠に足を乗せ、しっとりと濡れている屋根に下ろした。
やっとのことで地面に降り立つ。周りに民家は少ない。見られている心配はないだろう。 曇り空の下、ジャージのポケットに手を突っ込み、アスファルトを眺めて駅へ歩く。なけなしの金をはたいて切符を買い、凍えそうなホームで数分待った後、旧型の電車に乗る。 腰を下ろした座席は隙間風が冷たく、手を擦って熱を集める。その手は自然に腹へと動いた。一つだけ持ってきた、宝物。その感触に微かに安堵する。
何度か乗り換えをし、ようやく辿りついた目的地でも、やっぱり雪が降っていた。歩き出した路地は人気がなく、時折すれ違う人からはぎょっとしたような視線を送られる。無理もない。こんな平日に、擦り切れたジャージ姿で出歩いているのだから。
「真?」
だからその言葉は予想していなかった。彼女が、荒れ果てた僕に気付くなんて。
振り返ったその姿に、一つだけ思った。細くなったな、と。声も、体も、表情も。端正な顔は雪のごとく真っ白で、精巧な彫刻のような雰囲気を醸し出していた。
ただ変わらないのが、腰まであるつややかな黒髪だけだった。
「こんなところで何してんの? 風邪引くじゃない」
すぐに駆け寄ってきて、着ていたグレーのコートを僕に被せる。
「こんなに体冷やして……凍死するよ? 取り敢えずあったかくしなきゃ」
その細い声が震えていたのは、寒さだけが理由じゃないと思ったのは、何故だろう。
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