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メリッサは美しい女の子だった。
私は彼女を描くのが好きだった。対して、彼女は私の視線を生理的に受けつけないのだといって嫌悪している。ひどい話しだ。私に見つめられるくらいなら、満員電車で全裸になった方がいくらかマシだとまで言ってのけるのだから意地が悪い。
それでも週末になれば、彼女は時間通りに私のアトリエにやってきた。私は彼女の好きな紅茶とマドレーヌを用意して出迎える。スケッチのあとは、こうしてささやかなお茶会を開くのがまるで約束事のようになっていた。
「私、あなたのこと嫌いじゃあないわよ」
ある日、ふと思いついたように彼女は言った。フォークを持つ手があまりにも可憐だったので、私ははじめ上の空で相槌を打っていたように思う。
「あなたの視線は嫌いだけれど」
「そんなにいやらしい目で見てないわ」
「バカね。だから嫌だって言ってるのに」
そう言うと、メリッサはその白い頬を桃色に染めて膨らませた。「いつまで私をスケッチの中に閉じこめておくつもり?」子どもっぽく尖らせた唇はそれでいて艶めいていて、私は紅茶の味を忘れてしまう。
メリッサは美しい女の子だった。だからこそ、誰のものにもならないのだとばかり思っていた。
誰のものにもならなければいいと思っていた。
「そんなにきれいな目で見つめられたら、私どうにかなってしまいそう」
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