チワワのリトル

1/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

チワワのリトル

 私が死んだのはある晴れた静かな日。ゲリラ豪雨が喧しい連日の合間、珍しい一日だった。私は誰にも知られずにひっそりと、路地の奥で息絶えた。私は『リトル』という名で呼ばれていて、意識遠くなるその寸前に、その声を聞いたのだ。いつも聞き慣れている大好きな声。 「リトルっ。リトルっ。どこにいるの」 小さな体に貼りついた白い体毛が、乾くのを待たず、私は静かに目を閉じ、意識を手放した。ご主人様が来てくれた。安心して夢を見ることができる。最期に声を聞いただけでも嬉しかった。  ご主人様が大変な時期だったということはよく知っていた。介護というものだ。人間は年老いた人間の面倒を見るために、心身を削り始める。私はそれを感じつつも居た堪れず、ご主人様を困らせた。  私を見てくれる時間が減っている。私が呼んでも先に介護。お膝に乗ってゆっくりしていても、ご飯を食べさせてもらっていても、どこか何か足りない。     
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!