美味しいモノに私はなった

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「……た、すけ…て」  体が辛くて、それだけ口にするのがやっとだ。 「助けてあげてるじゃん。当初の約束通り痛くないでしょう。ちょっと気持ち悪いだけで」  少年は耳から口を離し優しく私を覗き込んだ。顔を撫で、頬を撫で、唇を指でなぞる。私はもう、水分が抜けて干からびた状態なのだろう。唇のガサガサが悪魔の指に引っかかって破れる。 「僕やっぱり優しいや。鏡は隠しておいてあげるね」  もう体は崩れ落ちて床に寝そべり声も出ない。そんな私に覆いかぶさるように、悪魔は顔を近づけてきた。今度は正真正銘のキス。唇が合わさる。こんな干物の唇なんて面白くもないだろうに。  だが至近距離で見る少年は今までで一番、無邪気な微笑みをしていた。 「あ……」  何かが入った? いや、私の中から最後の何かが出て行った。  まるで水の中から空を見上げているように、視界がぼやけて映像を結ばない。見えるのはただ色だけ。光から黒へ。ああ私は瞼を閉じたんだ。そしてそれはもう二度と開かない。 「朝ごはん、僕もちゃんと食べるから心配しないでって言ったでしょう。美味しかったよ、ごちそうさま」  耳もその音を最後に、機能を停止した。 「死にたいなんて気取られたらいいカモだよ。悪魔はどこにでもいるからね」
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